目を覚ますと用意してもらった部屋に私は居た。昨日の記憶は曖昧でよく覚えていない。黄瀬さんと話していたはずだけど、途中で寝てしまったのだろうか。だとしたら後で謝らなきゃ。そう思いつつ身体を起こす。


「怠い…」


いままでに無いくらい身体が怠さを訴えている。本当に風邪を引いてしまったようだが怠いだけなので何とか耐えられるだろう。今日で最後とは言え彼らにこれ以上の迷惑はかけたくない。ごめんなさい、じゃなくてありがとうとここを去りたい。あと少ししか居れないけれど、名残なく向こうへ帰ろう。向こうで私を待ってる人がいるから。



▲▽



「随分と顔色が悪いようだね」


赤司さんは会って早々「ここの食事は口に合わないかい?」と、やはり全て見透かしたような口振りで話す。今朝は案の定何も食べれなかった。それについて黄瀬さんは特に何も触れず、心配そうな顔で何かを考えている様子だった。 赤司さんは昨日と同じく上座から私たちを見下ろしている。そして私の側には相変わらず黄瀬さんが居てくれる。とても心強い。しかし思い出すのは昨日の罪悪感。あれから、彼とはまともに話していない。私が一方的に話すことを極力避けていた。何を話せばいいのか分からないし、私に話せる内容は無かった。


「……」
「まあいい。今日ここに来たと言うことは、全てを受け入れる覚悟があると捉えてもいいかい?」
「はい」
「それなら帰る前に伝えておきたいことがある」


膝の上で拳を握る。心臓が大きく脈打った。一体何を言われるのだろうか。


「僕が表の世界に繋がる扉を作る。そこから帰ることは可能だが、元の世界に帰れたとしても以前のように暮らすことは出来ない。この意味がわかるかい?」
「何も知らない時のように暮らせるとは思ってません」
「それもそうだが、この先名前が想像しているよりも過酷な現実が待っているとしても、君はそれに耐えられるのか?」
「過酷…?」
「そうだ。元の世界に帰った時、君にとってこちらが元の世界にも成りうる。それでも帰りたいと願うなら、僕は止めないし出来る限り最善を尽くそう」


まず、赤司さんの言っている意味がいまいち理解出来ないのは私だけだろうか。ここが私にとって『元の世界』に成り兼ねないだなんて。それにいまでも十分過酷だと思っている。誰一人として知り合いのいない独りぼっちの世界で、訳の分からない妖怪に囲まれ食欲すら湧かない。いつ死んでもおかしくない空間にいるだけでこれ以上の苦痛など、果たしてあるのか。いいや違う。どんなにツラいことがあっても私は帰りたいだけなんだ。このふざけた世界から抜け出せれば何でもいい。


「それでも帰りたいです」
「…そうか」


私の強い意志を汲み取って、さっそく扉は繋がれることになった。私が最初に居た林でなら扉を作りやすいからと林へ向かう私たち。元の世界に思いを馳せる私の横で、黄瀬さんが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたことを、私は知らない。


第一章・第七話(13'0524)
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